坂井輪診療所

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今日も快便! バナナのようにスルッと出てますか?

2020/2/8
[ 消化器の病気 ]

腸の動きは分速1mm 朝食を食べると一気に分速20cmに

食事を飲み込むと、まずは食道を数秒で通過し、胃の中で2~3時間、小腸で5~6時間、大腸に入ったあとは4~5時間で右側結腸→左側結腸に到達します。この間に水分が吸収されながら、かゆ状の便が形成されます。さらに左下のS状結腸に届いたときにはほぼ固形便になっています。この間、腸蠕動の速さは分速1mmほどです。そして朝食を食べることで「胃結腸反射」→「腸管大蠕動」が始まり、あっという間に直腸に便が降りてきます。大蠕動の速さは分速20cmほどだそうです。便が直腸の壁を押し広げることで便意が出て、排便後は直腸の中は空っぽに、すっきりということになります。

出典元: 排泄のメカニズム
https://www.jcca.or.jp/kaishi/271/271_toku2.pdf

慢性便秘症とは

さて「慢性便秘症」とは、排便回数が週に3回未満、あるいは便が硬くていきまないと出ないことをいいます。また最近では、便の硬さだけでなく排便後のすっきり感がどうか、残便感やおなかの気持ち悪さが残ってないことが重要視されています。そして慢性便秘のうち、器質的疾患がなく、腸管拡張がなく、便秘型過敏性腸症候群をのぞいたものを「慢性機能性便秘」といい、いわゆる慢性便秘です。その59% が結腸通過時間正常型、13%が「結腸通過時間遅延型」、のこりの25%が「便排出障害型」といわれています。

出典元: 便秘症の診断と治療―最新の進歩
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/106/11/106_2453/_pdf/-char/ja

センナ系の下剤を飲み続けると「結腸無力症」になる

もちろん便秘で悩んでおられる患者さんは、食事や運動など、いろいろな生活習慣を工夫されていることと思います。しかし思うようにならない、とりあえず市販薬でとなりますが、おそらくセンナ系の腸管刺激剤を服用される方が多いのではないでしょうか?寝る前に飲んでおけば、目が覚めることには薬の刺激で便意が誘発されます。一応すっきり出てほっとして、しかしそのうち薬が手放せなくなり、ついつい薬に頼ってしまう。また1錠が2錠に、3錠に、あるいはそれ以上にと薬の量が増えてきていませんか?

出典元: 便秘症の診断と治療―最新の進歩
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/106/11/106_2453/_pdf/-char/ja

そうなんです。刺激性下剤には「依存性」そして「耐性」があります。本来であれば、しっかりと朝食をとり、自然な腸管大蠕動をまって自然な排便ですっきりしたい、でも現代社会ではその時間がない、時差出勤もあります、ついつい薬に頼りたくなり、しかしその結果、腸管の筋肉の蠕動が弱まっていく、また大腸粘膜は黒く変わっていき(メラノーシス)、腸管は弛緩していく。精神的にもまいってしまい、どんなに薬を増やしても蠕動が出てこない「結腸無力症」となります。睡眠導入剤による「ベンゾ依存症」に似ていませんか?

漢方薬の下剤

また漢方薬に含まれる大黄はセンナに類似した作用を認め、大黄の含有量が下剤としての強度を決めているようです。しかし複合薬としての漢方薬には、単純に西洋医学的に語ることのできない作用があるようです。患者さんの個性に合った処方を受けることで、依存や耐性を緩和できるかもしれません。漢方専門医にご相談ください。

出典元:便秘症の診断と治療―最新の進歩
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/106/11/106_2453/_pdf/-char/ja

高齢者の「酸化マグネシウム」服用は注意が必要

「便排出障害型」の患者さんでは硬便のことが多く、酸化マグネシウムが便軟化剤として多用されてきました。薬価も安く、服用しやすい薬です。市販もされており大変良い薬ですが、 腎機能が正常であっても、高齢者が服用すると「高マグネシウム血症」の副作用があります。2015年 医薬品医療機器総合機構(PMDA)は直近3年間で29例の副作用、うち4例の死亡例を報告し、注意喚起がなされました。定期的に血中マグネシウムを測定せずに漫然と内服することは危険です。 https://medical-tribune.co.jp/news/2015/1020037633/

新規下剤のいろいろ

長らく日本では、センナ、マグネシウム、それ以外の下剤はほとんどありませんでした。しかしようやく世界水準に近づき、かなりの薬が保険適応となっています。みなさんもすでに服用されている薬があるかもしれませんね。

わたしの経験の範囲では、上皮機能変容薬は高齢者に試してよい薬かと思います。アミティーザは小腸粘膜に作用し水分を腸管に取り込むことで便を柔らかくします、さらに乾燥した大腸粘膜の粘液を回復し便の通過を助けることが特徴かなと思います。しかし小腸上部で作用するため、内服後におなかが張って苦しくなることがあり、リンゼスはむしろ小腸下部で作用するため良い方もいます。また腹痛を伴う便秘の方には大腸の痛覚過敏を改善する効果があります。

ところで2剤とも小腸からはほとんど吸収されず、腸管の受容体に結合します。その受容体の分布と親和性に個人差があるようで、臨床効果に甚だしい個人差があります。効きすぎて下痢の激しい人、まったく効果のない人がいますが、ほとんどの患者さんはその人の適量を見つけることができています。

その点、全く吸収されず腸管内で作用する薬がモビコール、これは大腸内視鏡検査の前に飲む液体の下剤です。1包で60mlの水分を吸着しますので、確実に便をやわらかくします。大腸検査のときは、この薬を33包服用することになります(水分2リットル)。

また昔から妊婦さんの便秘に適応症があったラグノスゼリーがあります(下記の表には未記入)便が柔らかくなり、悪玉腸内細菌を減らし、腸管蠕動促進作用があります。センナ依存症の患者さんに効果があります。

さらに胆汁酸の吸収を阻害し、胆汁酸による便軟化作用、蠕動促進作用を期待するグーフィスがあります。わたしは処方したことはありませんが、センナの効果がなくて便秘で悩んでいたALSの患者さんに著効し喜ばれていました。

出典元: 「慢性便秘症」に対する治療―新しい薬をどのように使うか―
https://oh-kinmui.jp/1509/

快食・快眠・快便は健康の3大要素といわれていますが、生活習慣の基本は「栄養」「運動」「睡眠」です。働き盛りは時間に追われる毎日です、逆に定年退職後は時間の使い方を持て余し、不規則な生活に落ち入りやすくなります。可能な限り生理的に無理のない生活を心がけ、ときには薬の力をかりながら(しかし睡眠導入剤や下剤は卒業を意識して)、快適な生活ができることが健康維持の基本です。

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