「健康寿命」と「平均自立期間」のちがい
「平均寿命」-「健康寿命」=「寝たきりで過ごす期間」?
厚生労働省のHPには「WHOが提唱した新しい指標で、平均寿命から寝たきりや認知症など介護状態の期間を差し引いた期間」と記されています。そしてその「不健康な期間」は男性で9年、女性で12年余りもあります。こんなに長い期間を寝たきりで生きるの? 超高齢化社会だから仕方がないけど。こんなふうに誤解されている方がおられます。
「健康寿命」はどうやって調べるのか?
では、どうやって健康寿命を調べるのでしょう? 平均寿命なら死亡診断書をもとに、0歳の平均余命を求めますから、まあ正確でしょう。では健康寿命はなにを基準に求めるのでしょう? 実は3年に1回行われる「国民生活基礎調査・健康表」のたったひとつの質問項目によって「健康」「不健康」の線引きをしています。ですので、質問された側の自己申告ですから、極めてあいまいな基準です。それをマスコミが大げさに報道し続けたために、日本は外国より寝たきり期間が長いとか、実態に合わない、いいかげんな報道で危機感を煽り立ててきたのです。
「平均自立期間」は介護保険の要介護度を基準にしている
「健康寿命」の線引きは、本来「健康増進」のために利用する指標でした。それに対して「平均自立期間」は65歳未満を自立していると仮定し、介護保険利用者のうち「要介護1」と「要介護2」の間に線引きします。さまざまな異論があることは前提として、とりあえず「日常生活動作(ADL)」が自立しているか否かの線引きをしたのです。つまり支援や見守りではなく、直接的な身体介護が必要とされるか否かをもって基準としました。最近は、こちらの指標を健康寿命として報道されることが増えてきています。
「健康寿命」には3つの指標がある
さらに健康寿命の指標には「主観的健康観」というものもあります。ですので、3つの指標のうちどの指標による健康寿命をつかっているのか、それを把握した前提でないと、報道内容が理解できません。とくに外国との比較においては指標をそろえないと意味がありません。
(1)「日常生活に制限のない期間の平均」 (客観的だが自己申告)
(2)「自分が健康であると自覚している期間の平均」 (主観的で自己申告)
(3)「日常生活動作が自立している期間の平均」 (客観的で介護保険利用)
http://toukei.umin.jp/kenkoujyumyou/syuyou/kenkoujyumyou_shishin.pdf
3つの指標による「健康寿命」の男女差
どの指標で見ても、加齢によって不健康割合が高くなることは同様です。しかし「主観的健康観」と「生活制限」割合を比較すると、男女とも20~65歳で「主観的健康観」が低くなっており、とくに女性で顕著です。ところが高齢者では逆転します、「生活制限はあっても、まあまあ年齢相応に健康な方かな?」という主観的な変化がうかがわれます。また高齢者では、女性の「生活制限」「ADL自立度」からみた不健康割合が、男性より高くなっています。しかし平均寿命は女性が長くなっています。
長野県の「健康寿命」 男女とも全国1位に
https://www.asahi.com/articles/ASN883GFGN87UOOB008.html
8月8日の報道を見て、あれと思われた方が少なくないのではないでしょうか? 長野県男性の平均寿命82.5歳-健康寿命81.0歳ですから、不健康期間は1.5年間と計算されます。同様に女性の平均寿命88.0歳-健康寿命84.9歳=3.1年間が不健康期間となります。実はそうではないんです、「健康寿命」→「平均自立期間」、「不健康期間」→「要介護期間」と読み替える必要があります。報道内容をよく読めばわかるのですが、表題が健康寿命ですからまちがえますよね。以下の表は、元データから平均自立期間で降順に並び替えてみました。みなさんの自治体のデータもありますので、計算してみてください。
だれもが長生きできるようになりました。しかし心身の衰えを避けることはできませんので、家族や社会の支えをかりながら、できる限り長く、住み慣れた地域で自分らしく暮らしていきたい。しかし「要介護2」くらいからは介護が必要となる場面が多くなりますので、「住まい」や「死の迎え方」など少しずつ考えていく、穏やかに、安らかに、旅立つ日が訪れるまで。
ですので、昔いわれた「ピンピンコロリ」は理想ですが、「突然死」ではまわりの方に心配をかけることになります。できうる限り、最低限の自分のことは自分でがんばって、そして食べれなくなり動けなくなったとき、最後の数週間は、遠くのこどもたちに介護休暇をとって来てもらって、「ありがとう」「たのむね」と伝えたいものです。