喘息でも「新型コロナ」に負けないために ~当院に通院治療中の気管支喘息患者さん152例の治療状況のまとめ
新型コロナウイルス感染対策 経口ステロイドの長期投与は禁忌
2月4日「日本アレルギー学会」から「新型コロナウイルス感染における気管支喘息患者への対応Q&A(医療従事者向け)」が発表されました。当院の患者さんは大丈夫なのだろうか? 3月現在で通院中の喘息患者さんを電子カルテから抽出し、直近1年間の治療状況を調べてみました。ポイントは4点。 https://www.jsaweb.jp/modules/important/index.php?content_id=67
①新型コロナウイルス感染症では肺炎を生じるため、喘息増悪をきたし、呼吸不全が増悪する危険性がある。したがって経口ステロイド薬の長期投与は、ウイルス感染の遷延や二次的細菌感染症のリスクとなるため可能な限り避けるべきである。
②感染前の対応として、気道炎症が存在する状態でウイルス感染による気管支炎が生じると、重症化するリスクが高い。したがって、気道炎症を抑えるために、吸入ステロイド薬による日頃からのコントロールが重要である。
③新型コロナに感染した場合、通常の喘息の治療を行うが、全身ステロイド薬(経口・静注)の投与は必要最低限にとどめる。
④気管支収縮作用のあるβ遮断薬(非選択的、β1選択的)や、喀痰の排泄を止めてしまう中枢性鎮咳薬は禁忌である。また解熱鎮痛剤を使用する際は、アスピリン喘息の既往を必ず確認する。
152人中96人(63%)が高齢者
さて、 当院に通院治療中の喘息患者は152人、男性45人、女性107人と女性に多く、あらゆる年代の患者さんがいるが、とくに60~70代の高齢者が多かった。
1年以上治療継続率は、男性で71%、女性で78%
過去1年間の治療継続状況は、1年未満の患者さんを除くと、男性で71%、女性で78%が継続して治療できていた。つまり男性で29%、女性で22%は断続的に治療していることになる。それは喘息の自覚症状がとれると通院中断することが少なくないこと。また他疾患で通院中であっても「吸入薬だけいりません」とお願いされることもあり、力不足を感じている。
若い世代ほど、治療継続率が低い
年齢別に治療継続率をみると、若い世代ほど治療中断が多い傾向が認められた。喘息の罹病期間も短いため短期間で症状が改善する、仕事を休んで平日に通院することが困難、喘息の治療薬は高価なため経済的にも継続しにくい、などの理由が考えられる。
治療中断群に高い、感染による急性増悪
1年間に1回でも気管支炎による抗菌剤治療を必要とした患者さんは、中断群に圧倒的に多かった。継続群の33%、中断群の61%が気管支炎のため外来治療を要した。しかし入院に至る例は1例もなかった。これは抗菌剤の進歩によるものが大きい、レスピラトリーキノロンとセフトリアキソンの点滴を組み合わせ、外来治療が可能となった。また何回か気管支炎を繰り返している患者さんは早めに受診してくれるため、重症化する前に治療が開始できる、このことも大きい。
経口ステロイド薬を必要とした症例は少ないが、継続群の9%、中断群の16%を占めていた。これらの患者さんは「新型コロナ」のハイリスク状態といえる。なんとか炎症を抑え込むことができ、入院に至った例は1例もなかった。しかし年間に数例とはいえ、非専門医のわたしには緊張を強いられる瞬間である。
治療中断群に多い、経口ステロイド薬治療
経口ステロイド剤を投与した14例、男性中断群で1例、女性中断群で4例、女性継続治療群で9例であった。中断群に多い傾向を認め、全員感染症を契機に増悪した。14例中12例に抗菌剤投与が必要であった。
喫煙者は、通院患者さんの5%
また 喫煙は「新型コロナ」最大の危険因子であるが、喫煙者は、男性6人、女性2人、あわせて8人で喘息患者の5%を占めていた。この中で経口ステロイド剤を必要としたケースは1例もなかった。
外来治療で完結できるようになった「治療薬の進歩」
以上をまとめてみて、よほど重症でない喘息患者さんであれば、なんとか外来治療で完結できていることがわかり、わたしが医師になったころからみると隔世の感がある。昔の呼吸器病棟には、テオフィリン持続点滴の患者さんが大勢いて、1日4回のメプチン吸入、それでも改善しない患者さんは長期に経口ステロイド薬を内服していた。1978年にベクロメタゾン吸入が日本に導入されてはいたがあまり普及せず、1998年のフルタイド吸入登場により、これまで呼吸器内科医しかあつかえなかった吸入ステロイド薬(ICS)が一般内科医でも簡単につかえるようになった。さらに2007年フルチカゾン・サルメテロールの合剤が発売され、治療の幅が広がった。
吸入ステロイド単剤が21%、配合剤が79%
当院で処方された吸入薬をまとめると、吸入ステロイド薬(ICS)単剤が3剤型と全体の21%、吸入ステロイド薬(ICS)と 長時間作用性β2刺激薬(LABA)の配合剤が4剤型と79%を占めていた。ICS単剤でコントロールできないときには、ICS/LABA配合剤に変更し、さらにロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)を併用、ときにはテオフィリン併用、重症例には経口ステロイド薬の短期間投与で早期に炎症を抑え込む。また改善したのちには、徐々に治療薬を減薬し、最小限のICSを継続することで、気道炎症が再燃しないようにコントロールしている。このことが「新型コロナ」への最大の備えである。
168人が「完全中断」している現実
課題は治療を中断する患者さんが大変多いことである。今回は検討しなかったが、当院の電子カルテに一度でも登録された喘息患者さんは320人おり、3月時点の通院患者数の約2倍となる。現時点で通院中の喘息患者さんは、高血圧症などの他疾患もあるため定期通院せざるをえない患者さん、あるいは繰り返す喘息発作を経験し、継続治療の必要性を身に染みて感じている患者さんである。喘息と診断しても自覚症状がとれてしまうと再来される患者さんは少ない。そのまま再燃しなければそれでもいいのだが、どうか「新型コロナ」に感染しないことを願うのみである。