「新型コロナ」に負けない健康なからだづくり ~丈夫な骨をつくろう! 当院で治療中の女性骨粗鬆症265例のまとめ(2020.4現在)
過剰な外出自粛のために歩けなくなった高齢者
「新型コロナ感染症の流行がはじまってから怖くて外へ出れない!」「楽しみにしていたデイサービスも行けなくなってしまった」 という患者さんが増えています。 今までなんとか歩けていたのに、家の中ばかりにいたら立ち上がることもやっとで足が前に出ない、このままでは寝たきりになるのではと心配されている患者さんがいます。もし転倒して骨折してしまったら、ますます動けなくなってしまいます。当院に通院中の患者さんはきちんと治療できているだろうか? 現在通院中の患者さんの治療状況を調べてみました。
女性の骨粗鬆症予防は閉経後から
骨粗鬆症治療中の患者さんは、男性22名、女性256名、計278名と、圧倒的に女性が多くなっています。また60代がピークで、年齢とともに減少傾向を認めました。その理由は、当院は内科診療の一環として骨粗鬆症治療を行っていますので、骨折予防の患者さんが圧倒的です。慢性腰痛症や膝関節症で痛みの強い方は整形外科に紹介させていただいています。
骨粗鬆症は整形外科の病気か?
当院がある町内の高齢化率は36%(女性に限ると40%)と高く、「しばらく顔を見ないな~」と思ったら、「骨折して入院していた」「歩けなくなって施設に入った」などなど、毎月のように骨折のお話を聞いていました。そこで整形外科で骨粗鬆症検査してもらいませんか?とお勧めしても、「痛いところがないから行きたくない」となかなか行ってくれません。それならば自分でやるしかない!と、体幹骨密度検査装置DEXAを導入したのが、2015年10月でした。
生活習慣病があると、骨コラーゲンがさびて骨折
その後、2000件ほどの検査をしてきたと思います。専門の先生方の勉強会に参加し、いろいろなことを教えていただきました。丈夫な骨(骨強度)は骨密度だけではない、骨質が重要だということです。つまり骨を鉄筋コンクリートにたとえるならば、いくらコンクリートで固めても、鉄筋がさびてグラグラでは折れやすいということなのです。とくに生活習慣病をお持ちの患者さんは「骨質が劣化」し骨折しやすい、つまり骨粗鬆症の予防は内科医の仕事なのです。現時点では骨粗鬆症治療中の患者さんの80%が、 糖尿病、高血圧症、脂質異常症などの生活習慣病を併発していました。
骨粗鬆症を早期に治療し、質の良い骨を維持する
骨は絶えず新陳代謝を繰り返しますので、5~10年の間に全身の骨が入れ替わります。「骨吸収」劣化した骨を破骨細胞がとかし、「骨形成」骨芽細胞が新しい骨を作ります。しかし閉経後、女性ホルモンの低下で骨吸収が高まり、骨形成が追いつかなくなります。骨粗鬆症とは、いわば女性のライフスタイルの中で必ず訪れるできごとなのです。そこで治療は、①過剰な骨吸収をおさえる ②骨形成により新しい骨をつくる、いずれかの治療となります。
SERMとは骨に対して女性ホルモンと同様の作用をする薬剤、ビス剤は骨表面に付着して破骨細胞からの攻撃を防ぐ薬、プラリアは破骨細胞そのもの活性化を抑える薬です。つまり「骨吸収」をおさえる薬が治療の中心となります。そして骨吸収抑制剤の効果がないとき、あるいはきわめて重症な骨粗鬆症のとき、「骨形成」をうながす薬であるテリパラチドの出番となります。ビタミンDは小腸からのカルシウム吸収を促進する薬です。軽症の方につかっています。
しかし日本人の血中ビタミンD濃度は低い人が多く、紫外線に十分あたっていても低い人がいます。体質的なこともあるのかもしれませんが、一度血液検査で確認されるとよいと思います。当院では、できるかぎりビタミンDを併用するようお願いしています。
内科通院中の患者さんの25%に骨折の既往
さて、当院で骨粗鬆症と診断し治療を開始する以前に脆弱性骨折の既往のある患者さんが65名(25.4%)、なんと4人に1人は骨折の既往がありました。骨折したときは整形外科を受診し治療されているはずです。しかし再骨折予防の治療が継続されていないのです。整形外科へは痛みがあるから通院するのであり、骨折が治ってしまうと中断してしまうことが多いようです。経口ビス剤の継続治療率は半年で50%、1年後には20%といわれているのです。
もちろん当院で治療を開始した患者さんでも治療中断、あるいは希望により中止することはあります。しかし昨年の追跡調査では、80%近い患者さんが継続して治療できていました。その理由は高血圧などの内科疾患を併発している方が圧倒的であるからだと思います。当院に通院中の患者さんには痛みがありません、痛みを伴う整形疾患のある患者さんは紹介させていただいています。
当院で治療開始した患者さんの新規骨折率は11%
当院で骨粗鬆症治療を開始した患者さんのうち、新規骨折例は28名(10.9%)でした。既往骨折のある65名中9名(13.9%)、既往骨折のない191名中19名(9.9%)でした。やはり骨折の既往がある人の方が再骨折は高い傾向がありました。しかし椎体骨折、大腿部近位部骨折など、骨折後に大きな後遺症をともなう骨折は顕著に減っています。これは骨粗鬆症治療のみならず、職員一同「転ばないようにね!」とくりかえし伝えていることの結果かなと思っています。
骨折のきっかけは、わずかな不注意から
最後に28名の骨折時の状況をまとめてみました。
①胸椎2名 椅子に座って食事をしていただけ1名、思い当たらない1名
②腰椎5名 階段を踏み外した1名、車の助手席から立ち上がったとき1名、デイサービスで運動しているとき1名、不明2名
③大腿骨2名 駐車場の車止めにつまづいた1名、道路の点字ブロックにつまづいた1名
④下腿骨・肋骨1名 ぬれた石畳に滑って足首をひねった1名
⑤上腕骨1名 病院見舞いの帰りに病室からでたときに転んだ1名
⑥前腕骨8名 階段から落ちた1名、体育館で運動中すべった1名、石につまづいた1名、椅子に乗って高いところのものを取ろうとして1名、靴下を履こうと片足立ちで転倒1名、なにかにつまづいた1名、不明2名
⑦膝蓋骨3名 前の人が振り向いたとき転倒1名、転倒1名、不明1名
⑧肋骨4名 自転車で転倒1名、踏台から転倒1名、風呂掃除中に痛くなった1名、夜寝がえりしただけ1名
⑨頸椎、下腿骨1名、以前骨折した足をかばおうとして階段から転落1名
⑩骨盤骨折1名 ケアハウスで転倒1名→退去
「新型コロナ感染症」を正しく恐れること! クラスターの場にいかない、マスク・手洗い・換気をしっかりと、「2つの肝」を抑えながら、コロナに負けない健康な身体づくりが大切です。決して家に閉じこもることなく、なかまといっしょに元気に過ごしましょう!