「上の血圧」と「下の血圧」が開くのはなぜ?
12月30日今年最後の外来診療でした。患者さんからの「なぜ?」は「脈圧」についてでした。これまでもよく同じ質問をうけますので、あらためて調べてみました。
「上の血圧」「下の血圧」は何を意味しているか
「上の血圧」は「収縮期血圧」といい、心臓が収縮して血液を押し出したときに上腕動脈で受ける圧力です。実は心臓から送られた血液の全部が、一気に上腕動脈まで届くわけではありません。6割は押し広げられた大動脈にたまります。4割の血液が上腕動脈に届き収縮期血圧として測定されます。そして心臓が拡張すると同時に出口の大動脈弁が閉じます。すると大動脈にたまった血液が一気に上腕動脈まで流れ拡張期血圧として測定されます。このような状態を「ふいご機能」として説明されてきました。 https://www.jhf.or.jp/action/mediaWS/22/02.html
しかし大動脈が固くなってくると、心臓から押し出された血液が十分に大動脈にたまることができなくなり、したがって拡張期に上腕動脈に送られる血液はゆっくりと流れますので拡張期血圧は低くなるのです。高齢者高血圧では大動脈硬化をともない、このように収縮期血圧が上昇し拡張期血圧が低下します、つまり「上の血圧」と「下の血圧」の差である「脈圧」が大きくなります。
「脈圧」より上の血圧が重要
脈圧の正常値は、30~50とか40~60とかいわれていますが、60以上では明らかに大動脈硬化があるようです。では脈圧が大きいことがどれだけ意味があるかということについてはガイドラインにも明確な記載がありません。そこでひとつ「国立がん研究センター:予防研究グループ」から「血圧指標の一つの脈圧と脳卒中発症との関連について」という多目的コホート研究がありましたので、参考になるかと思います。 https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/2875.html
結論から言うと、収縮期血圧<140の正常血圧の方に限って、脈圧が50以上の場合に脳卒中発症を有意に高めるということでした。それ以上の血圧の患者さんでは有意差を認めない、つまり「脈圧」を気にするよりも、「収縮期血圧」をしっかりと下げることが脳卒中の予防になるということです。わたしもそのように患者さんに説明していました。
大動脈閉鎖不全に注意
ひとつ書き忘れました。拡張期血圧が極端に低い患者さんの中に「大動脈弁閉鎖不全」の患者さんがおられます。心臓の拡張期に心臓の出口にある大動脈弁がしっかり閉じなくて血液が心臓内に逆流します。当然大動脈を十分に押し広げることができませんので拡張期に上腕動脈に届く血液量が減ります。聴診器ひとつで診断がつきますので、診察の際、自分では変わりないと思っても聴診をうけていただきたいと思います。
最後に、今年は坂井輪診療所開設30周年でした。がんばってホームページを更新し、健康情報を発信することができるようになりました。日々外来診療で学んだことを随時発信しますが、もし健康に関して不安をお持ちの方がおられましたら、ホームページの「お問い合わせ」からメールをいただけましたらありがたいです。わたしの力の及ぶ範囲でとりあげさせていただきます。また個人的な内容であれば、わたしのFBメッセンジャーから連絡をください。来年もよろしくお願いいたします。