空腹時血糖だけでは糖尿病を診断できない 「HbA1c測定のおすすめ」
職場健診の空腹時血糖が高くないのに糖尿病!
40歳のとき職場健診で高血圧症を診断され、ずっと当院に通院治療されている患者さんがいます。毎年職場健診を受けておられ、その都度検査結果を持参されます。当時からBMI=33~34と肥満症があり、脂肪肝も認めました。しかし空腹時血糖は100以下で正常、一昨年から、95→113→116と上昇してきていましたが、糖尿病の診断基準では空腹時血糖≧126ですので、初期の 境界型糖尿病と診断し、 減量の努力を促してきました。
「HbA1c」過去1~2か月の平均血糖を現す
しかし肝機能異常が遷延していましたので、脂肪肝炎の精査のため病院に紹介しました。診断の結果は単純性脂肪肝でたいしたことないと、しかしもっと重要なことが見つかりました。なんと、HbA1c=8.8%と上昇していたのです。ご存知の方は一目瞭然ですね、完全な糖尿病です。 ところでHbA1c が何を表しているかご存知でしょうか?過去1~2か月前の平均血糖値を反映します。
血液が赤いのは赤血球中のヘモグロビンの色です。本来ヘモグロビンは血中の酸素と結合し、全身の細胞に酸素を届ける役目があります。と同時に血中のブドウ糖とも結合しますが、「糖化ヘモグロビン」となってしまったヘモグロビンは元へはもどりません。糖化ヘモグロビンの割合を HbA1c という数値で表します。正常値は5.5%以下、6.5%以上は糖尿病状態なのです。前述の患者さんは知らないうちに糖尿病になっていたのです。
平均血糖の簡易計算式 (HbA1c-2)×30
さて HbA1c の理屈はわかったとしても、なんとなくイメージがわきません。そうなんです、血糖値で説明してもらわないと、そこで「アメリカ糖尿病協会」から発表されている計算式があります。
<推定平均血糖値(mg/dl)=28.7×HbA1c(%)-46.7>
この式に HbA1c =7%を代入すると、平均血糖値=154となります。
でもまだ面倒、電卓が要りますよね。そこでこんなページを見つけました。なんと暗算できるんです。(HbA1c-2)×30=だいたいの平均血糖値
HbA1c に先ほどの7%を代入すると、なんと150 いけそうですね。
https://allabout.co.jp/gm/gc/302365/
そこで最初に紹介した患者さんに戻ります。 HbA1c =8.8%を代入すると、なんと平均血糖値=204です(アメリカの式では206)。この式をどうやって見つけたのか聞いてみたいですね。するとこの患者さんの空腹時血糖値が110とすると、平均が200なら最高値は290ということになるでしょうか?もちろん血糖値の上昇下降の曲線はサインカーブではないですから厳密には異なります。しかし、おおよそのイメージがつきます。
初期の糖尿病は「食後血糖」から上昇する
言いたいことは、空腹時血糖値だけを毎年健診で測定していても糖尿病を発見できないということなのです。初期の糖尿病では食後血糖から上昇が始まります。進行すると空腹時血糖も上昇してくる、したがって早期に発見するためには食後血糖(1~2時間)を繰り返し測定したほうがよい、しかし検診の日に限って食事量を減らしてくれば血糖値は上がりません、ということは過去1~2か月間の平均血糖を反映する HbA1c がもっとも検診にふさわしいのではないかと思います。
労働安全衛生法の検査項目では見つからない糖尿病がある
そこで現行の労働安全衛生法ですが、血糖検査については「空腹時血糖、あるいは随時血糖を必須とし、 HbA1c だけの検査は認めない」となっています。また随時血糖とは食後3.5時間以上経過した時間をさします。つまり食後の最も高いと思われる食後血糖の検査は認めないということです。もちろん医師が必要と認めた場合のみ HbA1c 追加をしてよいのですが、会社側の負担が増えることになりますから通常はしないわけです。
わたしの失敗は、空腹時血糖値>100となった時点で、 HbA1c測定、あるいは75gOGTT負荷テスト 勧めなかったことにつきます。この患者さんは糖尿病の家族歴はありませんが、肥満症がありますから糖尿病に進みやすい状態にありました。もっと厳格に減量を指示し、もし昨年に検査をしていれば、早い段階で診断できた可能性がありました。
「HbA1c」を測ろう!
糖尿病は万病のもとです。早期に発見し、早期に生活習慣を改善しさえすれば、糖尿病のない人とまったく同じ健康寿命を全うできます。 HbA1c 検査は迅速検査ですぐ結果がわかります。今は調剤薬局でも受けられところがあります。住民健診では必ず測定しますが、会社によっては健診項目に入っていないことがあるのです。何かの折に一度は測定してみることをお勧めします。