脊椎動物の誕生と人類の高血圧
たいへん感動的な講演を聴講しましたので、ここに記録しておこうと思います。 以下は、自分で調べたことや私見も含まれています。
地球最初の生命は、深海底で熱水を吹き出す「熱水噴出孔」のような場所で誕生した単細胞生物であると考えられています。そして「カンブリア紀」には、海水中に爆発的に多くの生命が誕生しました。当時魚類は捕食者から逃れるだけの存在でしたが、やがて捕食者のいない新天地を求め「汽水域」に逃げ込むこととなったようです。
脊椎動物は塩分濃度0.9%の汽水域で誕生した
汽水域の塩分濃度は0.9%、淡水混じりの汽水域に逃げ込んだ魚類は、過剰な水分を排出するために腎臓を進化させます。さらにカルシウムなどのミネラルを貯蔵するための脊椎を獲得し「脊椎動物」が誕生しました。その後、進化した魚類の一部は海にもどり、一部は陸に上がります。しかし生活拠点が変わっても、どの脊椎動物の体液塩分濃度は0.9%と同じである、どういうしくみなのでしょう?
塩分3.4%の海水と塩分のほとんどない陸上生活
海にもどった魚類は過剰な塩分を排泄しないと死に至る。そのため進化させたのがナトリウム利尿ホルモン(ANP・BNP)である、口から飲み込んだ海水の塩分は鰓から排出し、飲み込んだ塩分は腎臓から塩分の濃い尿として排出される。逆に淡水魚は、口からはほとんど水を飲まず、腎臓からは大量の尿を排出する、生活環境が変わっても、塩分濃度0.9%の体液を維持できる。
塩のない陸へ上がった両生類、爬虫類、そして哺乳類には脱水との戦いが待っていた。水と塩分を保持するために、交感神経系、ナトリウム再吸収ホルモン、抗利尿ホルモン(水分排泄を減らす)を進化させた。
高い血圧を獲得したことが人類の進化につながった
魚類の血圧は20位しかないが、水圧のおかげで血液が循環する。 確かにまな板の上で切られても血が吹き上がることはない。両生類や爬虫類は心臓にシャントがあるため血圧が50くらいしか上がらない、したがって頭を高く持ち上げられない。ところが哺乳類は心臓の構造を変え、また十分な塩分と水分の保持により、重力に逆らって頭まで血液を巡らわせることができるようになった。その結果、人類は二足歩行が可能となり、これが進化のきっかけとなったのではないかと言われているという。
現代人は血圧を上げ過ぎたために、体を蝕まれることとなった
ところが、本来血圧は100位で十分であるのに、人類は必要以上に塩分を摂取することができるようになった。そのため必要以上に血圧が上がり過ぎ、高血圧症という現代病に蝕まれることとなってしまった。脳心腎などの臓器障害や動脈硬化症により健康が損なわれることになったのです。
過剰な食塩摂取が健康に悪いと知っていても減塩しない現代人にとって、陸上生活のために獲得した塩分再吸収システム(RA系)は高血圧症の原因となり、また塩分排泄システム(ANP・BNP系)は遠い過去に捨て去っていたのです。
高血圧症の治療の基本は、減塩と運動です。しかしどうしても血圧が下がらない場合は薬物治療となり、①血管拡張剤 ②RA系抑制剤 ③利尿剤のいずれかが選択されてきましたが、これからは ④塩分排泄システムを活性化し、かつ塩分再吸収システムを抑制することのできる薬剤が選択されてくるかもしれません。
血圧の高い人は「減塩」 血圧の正常な人と高齢者は「適塩」を
最後に、これまでのお話からは「食塩は悪」と誤解されるかもしれません。まずヒトは十分な体液がないと生きていけません、その体液の塩分濃度は0.9%です。つまり適量の塩分と水分を維持し脱水状態にならないようにしなくてはいけません。また同じように塩分の多い食事をしていても、血圧の低い人と高い人がいます。この差は「食塩感受性」という体質の差によるものです。また加齢とともに「食塩感受性」が亢進しますので、過剰な塩分摂取は高血圧症を悪化させます。
また過剰な塩分を摂取してきた人は、過剰な塩分を排出させるために、常に腎臓に負担をかけています。腎臓の機能が低下すると、水分と塩分の調節ができなくなります。食欲のなくなった高齢者が水分しか摂取しないと「低ナトリウム血症」という病気になります。疲れやすい、嘔気や頭痛がする、重症化すると意識がなくなりけいれんを起こし命にかかわります。
健康で長生きするためには、おいしい食塩を上手につかい、少量の塩分でおいしく食べられるような食習慣を幼いころから身につけることが大切です。高齢の方が体調をくずしたときには、血液検査で塩分濃度を確認してもらってください。
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